ハムストリングス損傷のMLG-R分類

FCバルセロナ

世界最高峰のタイトルであるチャンピオンズリーグ優勝5回

スペイン国内リーグの最高峰ラ リーガ優勝28回

クラブW杯、国内カップなど主要タイトルを総なめしてきたサッカー界の巨匠(2025年現在)

そんな世界最高峰のチームを支えるメディカルチームからの報告です

選手の年棒総額は5億500万ユーロ(860億円以上) ※2023年推定額

筋損傷により選手の稼働率が低くなることは、試合の結果に影響することはもちろん

人件費だけでも何億、何千万円もの損失を出してしまう

そんなシビアな世界でいかに筋損傷の受傷を少なくするか、離脱期間を減らすためにはどうやって筋損傷を捉えるかということを10年かけて検証してきた報告を紹介します

目次

この記事のポイント

  • MLG-R分類を用いて筋損傷を表現することで、筋損傷の記述を簡易的に行うことができます
  • また、競技復帰の予後を予測する上でも役立ちます

文献情報

ッカー選手のハムストリングス損傷におけるMLR-G分類システムの競技復帰予測:機械学習アプローチ

Valle X, Mechó S, Alentorn-Geli E, et al.” Return to Play Prediction Accuracy of the MLG-R Classification System for Hamstring Injuries in Football Players: A Machine Learning Approach” Sports Med. 2022 Sep;52(9):2271-2282.

doi: 10.1007/s40279-022-01672-5

抄録和訳

背景

サッカーにおいて、筋損傷は主要な問題のひとつである

しかし、我々は重度損傷からの競技復帰を予測する信頼できる手段を持っていない

目的

MLG-R分類システムを用いて、ハムストリングス損傷を重症度によって分類できるか、競技復帰の予後を提示できるか、再損傷のリスクが高い損傷を識別できるかどうかを検討すること

さらに副次的目的として、提案するシステムの一貫性を、観察者内および観察者間信頼性を調査することによって評価すること

方法

FCバルセロナに所属するすべての男子プロサッカー選手(トップチームとセカンドチームおよび2つのU-19チームの選手)において、2010年2月から2020年2月の間に生じた損傷を検討した

臨床的にハムストリングス損傷の所見を呈し、すべての臨床情報とMRI画像を有する選手のみを対象とした

線形回帰、ランダムフォレスト、eXtreme Gradient Boostingを用いた3種類の異なる統計学的および機械学習的アプローチを用いてMLG-R分類でのRTPにおける各因子の重要性を検討し、さらに競技復帰の予後を予測した

観察者内および観察者間信頼性を評価するために、Cohen’s kappa係数および級内相関係数(ICC)を用いた

結果

2010年から2020年にハムストリングスの筋損傷を受傷した選手は42名、件数は76件だった

そのうち50件(65.8%)はgrade 3rであり、54件(71.1%)は大腿二頭筋長頭に生じ、76件中33件(43.4%)は近位の筋腱移行部に生じていた

grade 2、3、3r損傷の競技復帰までの日数は、それぞれ平均14.3日、12.4日、37日であった

近位筋腱移行部に影響を及ぼした損傷では競技復帰まで平均31.7日であったのに対し、遠位筋腱移行部に影響を及ぼした損傷では平均23.9日であった

grade 3rの大腿二頭筋長頭損傷の解析では、Free tendonの部位での損傷は競技復帰までの中央値が56日である一方、Central tendonの部位での損傷では復帰がより短く24日であった(p = 0.038)

統計解析は、MLG-R分類システムの予測力が優れていることを示し、平均絶対誤差は9.8日、決定係数(R²)は0.48であった

競技復帰を決定するうえで最も重要な因子は、損傷が大腿二頭筋長頭のFree tendon部に生じること、あるいはgradeが3rであることだった

MLG-R分類において、観察者内・観察者間の信頼性は優れていた(κ > 0.93)が、「線維の不明瞭さ(fibres blurring)」の項目は例外だった(κ = 0.68)

結論

ハムストリングス損傷後の競技復帰が長期に至る主要な因子は、ハムストリングスの腱性組織に影響を及ぼす損傷である

我々は、信頼性、予後予測、客観性の点で優れているMRIに基づいたハムストリングス損傷分類システムを開発した

臨床の日常診療で容易に使用可能であり、今後の知見に応じてさらなる発展が期待できる

このシステムを医療コミュニティが採用することにより、統一的な診断が可能となり、より良い損傷管理につながるだろう

マイルの推し文(POWER SENTENCE)

With the introduction of our classification system, we strongly believe that there is no need to use any of these subjective terms to describe a muscle injury.

我々の分類システムを用いることで、筋損傷を説明する他の用語は必要ないと強く信じている

(MLG-R分類だけで筋損傷について表すことができる)

感想にまいる

日本では奥脇先生が提唱されているJISS分類が肉離れの分類、予後予測に関してゴールドスタンダードとなっています

こちらは、FCバルセロナのサッカー選手のハムストリングス損傷をMLG-R分類と照らして分析し、筋損傷に対してこのMLG-R分類を推奨している報告です

バルセロナはtiqui-taca(ティキ・タカ)という文化が根付いており、トップチームの哲学が各カテゴリーで共有されカンテラ(下部組織)の頃からティキ・タカのサッカーを経験してきた選手がトップチームで活躍する風潮が強いチームです

ティキ・タカとは、短いパスをテンポよく繋ぎ相手を崩していくサッカーのスタイルを指します

そんな特徴のあるスタイルを持つチームの分析なので筋損傷の発生にはもしかしたら多少の偏りがあるかもしれないです

しかし、クラブが長年かけて研究してきた肉離れに対しての報告であり、

これはニッチだ…! と思い共有しました

MLG-R分類を用いて筋損傷程度を簡潔に表し、さらに予後予測までできることでメディカルスタッフ間ではもちろん、チームのスタッフや選手とも共通認識を持って筋損傷を捉えることができる便利なシステムですね

実際に、私がチーム帯同をしていた時は、筋損傷に対して詳しいコーチングスタッフは損傷程度を聞いてきて大体何週で復帰だねと言ってくれるスタッフもいました

JISS分類ってかなり認知されてきているんだなと実感しましたが、

同じ肉離れでも損傷部位や再発の回数を考慮してチームドクターと相談してプロトコルを遅めに設定した選手もいます

そのような時にメディカルとテクニカルスタッフがきちんと意思疎通をしなければなりません

確かに考えてみると、MLG-R分類はこれらの背景も4文字の略語で表してくれるので、便利だなぁと思いますね

損傷程度がJISS分類と全く一緒ではないので混合しないようにしないといけませんが、筋損傷を考えるポイントとして損傷程度だけでなく受傷起点や部位、損傷回数などは考慮するべきだと教授してくれる論文です

論文中の本題からは話題が逸れますが、文献中の興味深い内容で

「FCバルセロナはサッカーのみならず、複数の競技チーム(バスケ、ハンドボール、フットサル、ホッケー)を有しているクラブであり、

FCバルセロナの全アスリートに対してCOR(Conocimiento, Organización y Rendimiento)という

プライベートな電子カルテに外傷や疾病に関するすべてのデータを記録している」

(診断名、理学所見、画像所見、検体検査、生体検査、受傷日、離脱期間、治療内容、再損傷)

と記載がありました

クラブが全選手共通で1つの電子カルテを持っているという規模の大きさや選手管理方法が垣間見える内容です

また、対象は2010年から2020年までにプロサッカー選手に生じたハムストリングス損傷が76例でなんとなく少ないな?と思ったのですが、

実際は、10年間でハムストリングスの損傷は748件生じており、打撲症例やMRI検査をしなかった症例などは除外され、条件を満たす症例が76件だったとのことです

軽度な損傷は超音波検査などで対応していたようなので、症例の重症度は確かに偏りそうですね

また、バルセロナの男子プロサッカー選手はトップチーム、セカンドチーム、フベニールA,B(17-19歳で構成される育成組織)が対象となっておりクラブ規模のデカさを思い知らされます

日本のプロ野球チームよりもプロ選手を抱えていますね

76件の内訳は以下のとおりです

ちなみに、Free tendonとは筆者が別の論文

[Length of the free tendon is not associated with return to play time in biceps femoris muscle injuries] にて

The free tendon is defined as the part of the tendon that has no muscle fibers inserting onto it, the remaining part of the tendon is referred to as the intramuscular tendon.

筋線維が付着していない部分」と定義しています

評価方法に関しては、以下の記事もご覧ください

筋損傷の重症度分類

損傷の重症度とRTPの日数は下図を参考にしてください

奥脇の分類と比べるとそもそも筋損傷の分類方法が異なるので同じグレードとして考えないほうがいいですが

MLG-R分類ではgradeが3rでFree tendonに損傷があると予後が悪いと結論づけています

JISS分類でいうとⅢ型の損傷ですね

また、MLG-Rシステムの導入をするメリットとして、論文中では

筋損傷を記述する際に従来用いられていた主観的な用語を使う必要はないと提言しています

MMechanism受傷起点
LLocation損傷位置
GGrading of severity重症度
RRe-injury再発回数

4文字略語 によって、筋損傷の受傷メカニズム、位置、程度、回数の情報を提供することで、筋損傷を簡易的に記述できることが強みのようです

MLG-Rシステムでの筋損傷の記述は以下のようになります

慣れれば、4文字の略語で筋損傷の把握を共有する際は便利そうですね

バルセロナの分類で得られた知見も頭に入れておいて筋損傷の把握をすること、またFree tendonの損傷があれば長期のリハビリとなることを念頭に入れてリハビリに臨むことが必要です

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