【下腿三頭筋肉離れのガイドライン!?】スポーツ現場エキスパートの定性的研究

厄介な肉離れの損傷の中でも、再発率が高く離脱期間が長期化しやすい下腿三頭筋損傷

20名のスポーツに精通した専門家がこの損傷に対して深掘りしていく様子を定性的研究から読み取ることができます

ボリューミーですが、現場視点の内容がたくさん詰まっている論文です

目次

この記事のポイント

  • 20名の臨床のエキスパートにインタビュー調査を行いました
  • インタビュー内容を各カテゴリーに分類して、エキスパートが実施する内容をまとめました

文献情報

腿三頭筋肉離れの評価・管理・予防:20名のスポーツ臨床専門家による実践と見解に関する定性的研究

Green B, McClelland JA, Semciw AI, et al.”The Assessment, Management and Prevention of Calf Muscle Strain Injuries: A Qualitative Study of the Practices and Perspectives of 20 Expert Sports Clinicians”Sports Med Open. 2022 Jan 15;8(1):10.

doi: 10.1186/s40798-021-00364-0.

抄録和訳

背景

多くのスポーツにおいて下腿三頭筋損傷(CMSI)が問題となっているにもかかわらず、これらの損傷後のガイドとなる研究は乏しい

この研究の目的は、CMSIの評価・管理・予防に関する国際的な選抜された専門家の実践と見解を、詳細な半構造化インタビューを用いて評価することであった

結果

スポーツ現場で働くエキスパート、あるいはこの分野を専門とする臨床研究者20名にインタビューをした

インタビューからいくつかの重要なポイントが示された

CMSIの特徴は、他の筋損傷と異なる臨床的特徴を有しており

正確な検査で確定診断を行い、下腿の能力および負荷量に対する反応を継続的にモニタリングすることが、予後予測の推定につながると考えられる

アスリートの特性、損傷要因、そしてスポーツを考慮した6つの管理フェーズにわたるリハビリテーションで、別部位の損傷や再発をしないで、最適な状態で競技復帰(RTP)できるよう考えられた

CMSIを予防するためには、定期的なモニタリングが一般的であるが、実践内容にはばらつきがあり、データは将来のCMSIを予測するためというよりも、負荷管理や運動選択を情報提供する目的で収集されている

CMSIに対する普遍的な損傷予防プログラムは存在しない可能性が高い

その代わり、アスリートの内的特性やスポーツ特性に応じた戦略が推奨される

結論

専門家から提供された情報により、CMSIを臨床的に評価するための推奨アプローチの概要を提示し、診断および予後判定において最も重要と考えられる損傷の特徴を捉えた

また、リハビリテーションおよび競技復帰(Return to Play: RTP)の意思決定を含む、最適な管理のための体系的な原則も特定された

CMSIは予防が難しい損傷とされるが、特にリスクの高い選手に対しては、専門家によるオン・ザ・ピッチおよびオフ・ザ・ピッチの多面的な介入が、再発リスクの軽減に寄与していた

マイルの推し文(POWER SENTENCE)

Match day examination of CMSI was also described to have unique constraints due to time pressure and the “risk versus reward” (Expert 10) : “On game day, where the bottom line is: is the player done, or is the player continuing to play?”(Expert 14). Experts agreed that in these situations, while the immediate objectives were to establish the primary pathology and suitability to continue, detecting pathology did not always preclude further participation.

下腿三頭筋損傷(CMSI)のゲーム当日の判断は、時間的な制約とリスクVS成功を天秤にかけた特有の制限があると述べられた(エキスパート10):試合当日、最終的には選手のプレーの可否を決めないといけない(エキスパート14)

エキスパートはこのような状況ではメインの病態を見つけてプレーができるかどうかを判断していくが、病態が分かったとしても必ずしも競技を中断するわけではないという意見だった

感想にまいる

とにかく長い、28ページに及ぶ論文です

定性的研究で、まるで偉い方々がスタッフルームで下腿三頭筋損傷に関してディスカッションをしている様子を、部屋の片隅で傍聞きしているような感覚に陥る論文でした

論文では各専門家の発言を中心に話の道筋を立てていくという形で進んでいきます

現場レベルの内容が多く、まさにエキスパートが現場で下腿三頭筋損傷をした時にどうしているのかということがリアルに伝わる論文です

  • 下腿三頭筋損傷でなければ何のケガ?
  • 試合当日の下腿三頭筋損傷をどう判断するか
  • 下腿三頭筋損傷と分かった場合、予後をどう判断するか
  • 競技復帰をどう決定するか
  • リハビリテーションはどうしていくか
  • 強度のあげ方は
  • 予防はどうするか

このような内容を現場の各エキスパートがどうしているのかを垣間見ることができます

また、選手に対してどのような質問をして症状を鑑別するのかなど表でまとめられており、

下腿三頭筋損傷に対してのガイドラインとしても有用ではないかと思われます

今回は、ところどころ掻い摘んで論文の内容を共有します

長くなるので、お手隙の際にご覧ください

トレーナーをしていて選手がその場で怪我をした際、救急対応で選手に駆け寄りますが

選手の安全を確認後、まず大事なことはプレー可否の判断です

そこでどのようなやり取りをするのかということは、なかなか教えてもらって身につくものではなく、

その場の対応をいくつも経験することで徐々にできることが増えていくものだと感じています

「推し文」で取り上げましたが、論文中で試合当日に下腿三頭筋損傷をした場合、

プレー継続か離脱の判断をするために下腿三頭筋損傷の鑑別診断を行うが、下腿三頭筋損傷を疑っても必ずしも競技継続を止めるわけではないとあります

評価をして明らかに下腿三頭筋損傷があると分かっても、チームに欠かせない選手だった場合やその試合が選手にとって人生を左右する試合であった場合、パフォーマンスを発揮できる状況であればプレー継続にゴーサインを出すこともあるという一つの意見ですね

様々な背景を考慮して、チームのために、選手のために、選手の既往歴や特徴なども考慮してプレー可否を判断しなければいけないという現場トレーナーの面白さや難しさを感じるリアルな一文です

下腿三頭筋の損傷は他の肉離れとは違う考えが必要という紹介もされています

下腿三頭筋損傷の経過・予後

“I have seen players that have ‘one week lesions’ on a scan miss six. And I have had other players who have, you know, what looks like a three or four-week injury on imaging play…I think it comes back to those internal factors, the ones that can play with them are strong, good athletically, minimal soft tissue injuries, young. Whereas if you get a smaller lesion in an older player, with no strength, poor training age in the gym—they can’t cope if they don’t have the architecture to support that lesion. And taking a holistic approach, and really knowing them inside out. Knowing their training background and their injury history,” (Expert 1).

1週の損傷と見立てられた選手が6週かかったり、3~4週と考えられるような選手がプレーできている場合もあります

結局は、内的要因の要素が強くプレーできる選手は強く、運動能力が高く、組織損傷が小さく、若い

一方、小さい損傷でも、年齢が高くて筋力が弱くトレーニングをあまりしていなければ対処できない

全体的に捉え、選手の背景や既往歴を考慮することが大事です

予後としては、大まかに継続vs短期離脱vs長期離脱と分けることが大事で

画像診断でなく実際の経過、機能に合わせてリハビリを進めることが望ましいとしている臨床家も多いようです

“What trumps MRI is the clinical progression: the recovery of strength, the recovery of range of motion, the ability to progress through clinical milestones, decreased swelling, decreased pain, muscle activation, resolving strength. Those to me are a lot more important,” (Expert 10). Early focuses for experts were the rate of resolution of pain free walking (“players saying ‘I felt a big rip, a big pop,’ and you’ve got someone who can’t walk pain free until after day 10: that’s a 6 to 8 week calf before you scan it,” (Expert 15)), palpation tenderness, stretch tolerance, single leg calf raise strength and plyometric function.

MRIに勝るものは臨床経過です:筋力や可動域の回復程度や、腫脹、痛みの軽減、筋出力の増加、筋実質の回復程度が重要な指標になります(エキスパート10)

エキスパートにとって、最初にフォーカスを当てるのは痛みなしで歩けるかということ(選手が、肉離れした感じや音が鳴ったといって10日以降も歩けない場合、MRI検査する前に6~8週程度かかると考えます(エキスパート15))と、触診、圧痛、伸張痛、片足ヒールレイズの筋力とプライオメトリクス機能です

Experts also refrained from routinely reimaging prior to RTP to “confirm healing” as a perceived safeguard against recurrence: “If we accept that clinical findings are actually better for us prognostically than MRI, sometimes the MRI can overly cloud your judgement, and I think that applies to calf injuries more than it does for hamstrings and quads, and other things,” (Expert 16).

専門家は競技復帰前に筋損傷の治癒を確認するための再発予防を目的としたMRI再検査を習慣的に行うことを控えます

もし、臨床初見の方が予後の判断がMRIよりも優れていると認められれば、MRIの結果が判断を曇らせる場合があるからです

そして、この傾向はハムストリングスや大腿四頭筋など他部位の損傷よりも下腿三頭筋で当てはまると思われます(エキスパート16)

下腿三頭筋損傷後のランニング

ランニング開始時期の判断は重要で、基準を厳しくすべきと考えられており

ランニング開始時期が遅れても構わないと考えるエキスパートが多いようです

リハビリをしていると、プロトコルを遅らせることには勇気も入りますが、学術的、経験的な評価基準をしっかり持って選手や患者さんのベストな選択ができるといいですね

Experts acknowledged criteria for running after CMSI is more stringent relative to other types of muscle strains, because running is a high-load scenario for the calf even at the slow speeds prescribed initially .

ランニングは初期に低速で始めても下腿三頭筋にとって高負荷であるため、エキスパートは下腿三頭筋損傷後のランニング開始基準は他の筋損傷よりも厳しいと認識していました

Most experts accepted a slightly delayed return to running in order to reduce the likelihood of early recurrence .

早期再発のリスクを減らすために、ほとんどのエキスパートはランニング開始がやや遅れることを受け入れています

論文中でまとめられていた、下腿三頭筋損傷後のランニング開始基準を共有します

「筋力の獲得」時期に、Early therapeutic loadingとFoundation calf & lower leg functionのトレーニングを、ランニング開始までにDirectional workとLocomotive reconditioningのトレーニングを行うという意見でした

走行が開始すると、エキスパートは走行時に意識する6つのルールを持っているようです

Six ‘rules of thumb’ were identified from information provided by experts to guide running rehabilitation after CMSI: (1) initially run on alternate days, (2) avoid “plodding” early, (3) do not progress volume and intensity on consecutive days, (4) schedule off-field exercises (e.g. loaded strengthening) after running, (5) shape running progressions to meet the demands of the sport— don’t overshoot with excessive volume, (6) avoid sudden changes in conditions, such as the surface and footwear. Learning from past mistakes, experts preferred to avoid prolonged, slow continuous running (i.e. “plodding”, “go and jog 5 laps,” Expert 4) during early running rehabilitation because it had been found to predispose to recurrence for CMSI involving soleus.

下腿三頭筋損傷後のランニング時の6つのルール

  1. 最初は隔日で走る
  2. 初期ではダラダラ走りを避ける
  3. 連日でランニング量と強度を上げないこと
  4. ランニング後に荷重トレーニングなどを実施すること
  5. スポーツ特性を考慮して一気に走行強度を上げることーやり過ぎにならないようにすること
  6. サーフェイスやシューズを急に変えることを防ぐこと

過去の失敗例から、ヒラメ筋を含む下腿三頭筋損傷の再発リスクを避けるために、エキスパートはランニング初期段階でロングジョグ(ダラダラ走りや5週ジョグ)を避けることを好んだ

特にヒラメ筋損傷をしている場合は、負荷量の調整をする必要があると述べられています

Experts also advocated taking additional care when building volume for athletes that are rehabilitating a soleus injury in order to mitigate the risk of fatigue- related recurrence, especially if they are returning to a sport involving large running workloads (e.g. soccer, Australian Football, distance runners)

下腿三頭筋損傷の再発予防

予防セクションでは、再発に関わる4つの要因が挙げられています

リハビリ期間の正確な長さと再発リスクには関連がないことが示されており

再発リスクに影響する要因は以下が挙げられています

  • 高齢
  • 既往歴
  • 筋力
  • プライオメトリクス機能の不足
  • 下腿三頭筋への負荷量

In support of this point, a recent study found no association between the precise length of the rehabilitation period and the risk of recurrent CMSI .

Other factors such as older age and injury history , deficits in strength and plyometric function, and exposure history, may be more influential on risk of recurrence.

また、ヒラメ筋による下腿三頭筋損傷と腓腹筋による下腿三頭筋損傷は受傷理由を区別して考えると再発予防のリハビリに活かすことができる可能性があります

Total volume was highlighted for offsetting the risk of gradual-onset CMSI involving soleus, which were attributed to cumulative overload, whereas gastrocnemius injuries were perceived to be more sensitive to high-intensity activities such as jumping.

蓄積していく過負荷によって受傷するとされるヒラメ筋が関与する下腿三頭筋損傷のリスクを減らすためには総負荷量に着目する必要があります。一方で腓腹筋の損傷はジャンプなど高強度活動で生じるとされていると考えられています

下腿三頭筋損傷に対してリハビリテーションをする際に、参考の一つにしたい内容ですね

かなり内容を絞って共有していますが長くなってしまいました…

読めば読むほど、マーカーを引きたくなってしまう論文です

ぜひご一読ください

マイル
理学療法士・ブロガー
理学療法士歴10年超の30代
クリニック、病院勤務、スポーツチーム帯同を経て得た経験を発信中
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