下腿三頭筋の肉離れ

再発が多い肉離れの部位といえば下腿三頭筋の肉離れ

プロアスリートでもこの怪我に悩まされ、再発を繰り返し長期離脱を余儀なくされる選手も多い損傷です

この部位の肉離れが生じると、より身を引き締めてリハビリに臨む思いになります

そんな下腿三頭筋の肉離れのリハビリに臨むにあたってのポイントをまとめます

目次

下腿三頭筋の解剖

ヒラメ筋(sol:Soleus)

起始停止

腓骨頭と腓骨頸の後面、脛骨のヒラメ筋線およびこれと腓骨頭を結ぶ腱弓(ヒラメ筋腱弓)

アキレス腱を介し踵骨隆起

支配神経

脛骨神経 (S1,S2)

腓腹筋(gas:Gastrocnemius)

起始停止

内側頭

大腿骨の内側上顆

アキレス腱を介し踵骨隆起

外側頭

大腿骨の外側上顆

アキレス腱を介し踵骨隆起

支配神経

脛骨神経(S1,S2)

参考書籍

解剖学書は大型ですがこの書籍をお勧めします!綺麗で見やすく、説明も詳細に載っています↓

下腿三頭筋の筋損傷の割合

国立スポーツ科学センター(JISS)の報告

奥脇先生が投稿された

[トップアスリートの肉離れ-競技と受傷部位およびMRI分類について] では

17年間で肉離れと診断された1078例の部位別割合が示されており

下腿三頭筋1078件のうち163例に生じたと発表されています

163例のうちヒラメ筋は112件腓腹筋内側頭は49件でした

腱膜部(筋腱移行部)での受傷割合がヒラメ筋、腓腹筋内側頭ともに多く発生していました

オーストラリアンフットボールリーグからの報告

Green先生が

[Calf muscle strain injuries in elite Australian Football players: A descriptive epidemiological evaluation] にて

オーストラリアンフットボールのエリート選手を対象とした研究では、

リーグに報告のあったふくらはぎ損傷(CMSI : calf muscle strain injuries)149件のうち、 ヒラメ筋が126件(84.6%) 、腓腹筋が17件(11.4%)だったと報告しています

他の損傷は、後脛骨筋3件、長腓骨筋1件、足底筋1件、アキレス腱断裂1件が生じていました

下腿三頭筋の肉離れを疑う際は、

どこの筋が損傷しているか?

を推測する際に、ヒラメ筋、腓腹筋の損傷割合を統計的に知っておくことも大切です

もちろん理学所見を取ることは大前提です

下腿三頭筋損傷の予後・経過

JISS分類で筋の損傷度を判別することで大まかな復帰時期が決まってきます

筋損傷の重症度分類

Green先生の2つの論文を参考に下腿三頭筋損傷の予後に関してお送りします

下腿三頭筋損傷の予後(ヒラメ筋と腓腹筋の経過の違い)

Green先生が

[Calf muscle strain injuries in elite Australian Football players: A descriptive epidemiological evaluation] にて

オーストラリアンフットボールのエリート選手のヒラメ筋損傷と腓腹筋損傷の経過に関して

競技復帰に、ヒラメ筋損傷は25.4±16.2日腓腹筋損傷は19.1±14.1日要したと報告されています

また、ふくらはぎ損傷の初回受傷と再発例の競技復帰までにかかる期間を比較すると初回受傷では22.9±13.6日、再発例では41.8±28.6日要したと報告されています

下腿三頭筋損傷の予後・再発率(筋損傷に重度な腱膜損傷を伴うか否か)

[Return to Play and Recurrence After Calf Muscle Strain Injuries in Elite Australian Football Players] にて

オーストラリアのフットボール選手で下腿三頭筋損傷した149件を対象に

年齢、既往歴、人種(ethnicity)、および受傷機転(mechanism of injury)とMRI所見を調査した報告で

  • 重度な腱膜損傷を伴う選手(31.3 ± 12.6日 vs 19.4 ± 10.8日)
  • 走行中に受傷した選手

でより競技復帰に時間がかかったと報告しています

また、重度な腱膜損傷がヒラメ筋にあった場合により競技復帰まで時間がかかったとしています

受傷後2週以内の再発年齢が高くなることと足関節の損傷既往がある選手に多かったと報告されています

論文内での表を共有します↓

大まかな復帰日数の目安となると幸いです

下腿三頭筋の各部位に関しては、以下の文献を参照にすると場所が分かりやすいです

オペ適応

下腿三頭筋の手術は、アキレス腱断裂に対しての手術療法はメジャーですが

肉離れに対しての手術療法は経験したことはなく、周りで聞いたこともありません

しかし、文献を検索してみると手術を行う症例もいるようです

Pereira VL先生の

[Surgical repair of the medial head of the gastrocnemius: two case reports and review] にて

ポップ音を伴い受傷した2症例 (受傷起点:ジャンプ着地、自転車ごと落下)

下肢の機能不全が出現し、

MRI所見で顕著な間隙(gap)、血腫の存在、および保存療法による改善不良のため、

受傷後3~4週で縫合術を実施した症例が報告されています

術後プロトコル

~3週:患側非荷重、ROM禁止

3週~:ROM開始、歩行開始

6週~:筋力トレーニングおよびスポーツ動作開始

競技復帰 

4ヶ月半〜5ヶ月

肉離れプロトコル

筋損傷後の筋の再生過程において

損傷した筋線維の端同士が最終的に癒合するか

瘢痕組織が筋を繋いでいる状態だけなのか

という最終過程に関して未だ明らかとなっていません

筋の修復過程

記事が見つかりませんでした。

参考書籍

軟部組織損傷の理解についてこの書籍をお勧めします!各軟部組織ごとに基礎からケーススタディまで学びが多い1冊です↓

しかし、ハムストリングスの肉離れでは遠心性収縮を伴うL-protocolのリハビリメニューが

遠心性収縮を強調しないC-protocolのリハビリメニューよりも競技復帰を早期にできたとの報告があります

参考:Askling CM, et al : Acute hamstring injuries in Swedish elite football: a prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols. Br J Sports Med 2013;47:953–959.

ハムストリングスの肉離れ

下腿三頭筋でも同様に遠心性の収縮を伴うリハビリメニューは効果があると考えられます

段差を利用した遠心性のヒールレイズは下腿三頭筋の遠心性収縮を促すために重要なエクササイズです

下腿三頭筋においては2024年の臨床スポーツ医学会の口頭演題で草場先生が報告された研究が面白かったので紹介します

ラグビー選手を対象とした研究で、ヒラメ筋損傷が生じた26例を対象にリハビリAプロトコル(20例)とリハビリBプロトコル(6例)に分けて再発率を検証した報告です

Aは、カーフレイズの最終域で症状がないことを確認したのち低速ジョグ(4m/s)を1.5kmから開始するプロトコル

Bは、カーフレイズで症状がないことと7m hop testで症状がないことを確認したのち中速ジョグ(5.5m/s以上)を1.2kmから開始するプロトコル

それぞれ漸増的にランニングレベルを上げていきスポーツ復帰を目指しました

Aでは再発が2例、Bでは再発が0例でした

母数の関係で統計的な有意差は出ませんでしたが、低速ジョグを長い時間するリハビリメニューよりも中速度のジョグを短い時間行うリハビリメニューの方がヒラメ筋の再発は低いことを示唆しています

ヒラメ筋は、低速の走行時でも筋活動が高いことが分かっています

走行時の筋活動

また、下腿三頭筋損傷の評価・管理・予防に関する論文でも

下腿三頭筋損傷、特にヒラメ筋損傷ではジョグの開始基準を厳しくすべきと考えられています

この定性的研究の論文は長いですが、お薦めの論文です

下腿三頭筋肉離れの評価・管理・予防に関する、スポーツ臨床専門家の実践と見解

これらのことを考慮すると、

ジョグの開始基準を厳しくして、走行の強度を短い時間で上げていく

という方法がヒラメ筋損傷後のリハビリテーションでは有用かもしれません

復帰基準

肉離れの明確な復帰基準が確立されているとは言い難いです

しかし、サッカーにおいてハムストリングス肉離れ後の競技復帰に関してFIFA(国際サッカー連盟)が実施したデルファイ研究は下腿三頭筋にも応用が効くと思われます

ハムストリングスの肉離れ [復帰基準]

まとめ

  • 下腿三頭筋は再発率が高く、ハムストリングスと同じように強度を上げていくとリハビリ中や復帰後に再発をする可能性が高い部位です
  • 下腿三頭筋はヒラメ筋の損傷割合が高いです
  • ヒラメ筋損傷のリハビリとして、ジョグ開始の基準を厳しくすることやジョグ開始時の速度、距離、走行時間をコントロールすることが大切かもしれません

ご覧いただきありがとうございました

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マイル
理学療法士・ブロガー
理学療法士歴10年超の30代
クリニック、病院勤務、スポーツチーム帯同を経て得た経験を発信中
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